つい最近まで、iPadがパソコンの代わりになるという趣旨のCMを頻繁に目にしました。
学生さんらしき人物が重たいリュックに苦労しているところにiPad Proが登場して「iPad Proは、教科書にもカメラにもノートパソコンにもなる」「リュックが軽くなりますよ」とアピールするCMです。
iPadはパソコンの代わりになるの?
iPad Proを発売から使ってきた経験から言うと、iPad Proは完全にノートパソコンの代わりになることはできません。
いくらiPadの処理スピードが向上してアプリが高機能なったとしても、自由度が高く、言わば「全部入り」のパソコンと比べるには無理があります。
しかし、すべての人に「全部入り」が必要なわけではありません。
正確には「使用する用途によってはパソコンの代わりになるかも知れない」というのが正確なところではないでしょうか。
僕個人のケースで言えば、iPadで行うクリエイティブな作業として「文章を作成する」「デザインする」というあたりがメインですが、いまだ完全にパソコンの代わりにはなっていません。
「文章作成」と「デザイン」
そのどちらもiPadが得意そうな分野ですが、どちらもiPad独特の「3つの機能不足」でパソコンの代替としては使えないでいるのです。
逆に、その3つさえ解消されれば、すべてiPadで作業が完結できるようになるかも知れません。
恐らく多くのクリエイターが感じているであろう、この3つの機能不足について、考えてみたいと思います。
iPad Proがパソコンの代わりになるために欠けている3大ポイント
(1)日本語入力のIMEを変更することができない。
iPadでも利用できるATOKはすでにリリースされていますが、基本的にフリック入力用です。iPadで動作しているiOSの制限によって、日本語入力のIMEそのものを入れ替えることができないため、ATOKは外部キーボードでは利用できないのです。
変換精度にこだわりがないのであれば、標準搭載のIMEでも問題がありませんが、書籍用の原稿を作成しようとすると、とたんに無理が生じます。なぜなら、標準のIMEでは外付けキーボードで「全角スペース」をスムーズに入力することができないからです。特に縦書きを想定した日本語原稿において、行頭の全角スペースが入力できないことは破滅的な機能不足とも言えます。
(2)フォントをインストールすることができない。
iPadには素晴らしいデザイン、グラフィックソフトがいくつも揃っています
iPad ProとApple Pencilの組み合わせで絵を描くと、素人の僕でも、その描き心地のよさに驚くほどですが、いざ本格的にデザインに取り掛かろうとすると、iPad Proでは役不足で、結局パソコンを立ち上げてしまうことがほとんどです。
その大きな原因は、iPadに外部フォントをインストールできないことにあります。
イラストであれば問題ありませんが、DTPやポスターや名刺などのデザインは、外部フォントがインストールができないと、手の出しようがありません。
(3)Finderやエクスプローラーのようなファイル管理ができない。
iPadで自由度なファイル管理ができないことはメリットでもあり、デメリットでもあります。
メリットは不用意なファイル操作によってシステムに問題が起きるリスクがないこと。デメリットは、ひとつのファイルを複数のアプリで加工したり、大量のファイルを分類したりすることが難しくなることです。
自由度の高いファイル管理機能がないことで、たとえば複数のファイルを組み合わせる必要のあるプログラミングやWebサイトのコーディングは、iPadだけで完結させることが非常に難しいことのひとつです。
※2017年秋にリリース予定のiOS11では、ファイル管理機能が実装される予定です。ただし、このアップデートによって、どこまでiPadがクリエイティブ作業のキャパシティを広げられるのかは現段階では未知数です。
まとめ
議事録やノートをとる、イラストを描くといった用途では、上記にあげた問題点は必ずしも重要ではありません。
場合によっては、本当にiPadだけでOKというケースもあるでしょう。
それでも、少なくとも現時点では、すべてのクリエイティブ作業においてパソコンに置き換わるものではなく「パソコンの代わりになる」というのは、少し言い過ぎであるような気がしてなりません。
iPadはすぐれたタブレットに違いありませんが、パソコン の代わりとして飛びつくのではなく「どのような用途でiPadを使いたいのか」をしっかりと考えてからにした方が良いのかも知れません。