家風呂の普及とともに、銭湯が激減する中。銭湯の心臓部とも言える「釜」の故障から一度は廃業を決断したものの、銭湯ファンの後押しを受けて廃業を撤回。釜を新しく入れ替えて、今もお湯を沸かし続けているのが、姫路の「白浜温泉」です。
その奇跡とも言える復活は銭湯ファンの間では有名で、「銭湯の聖地」のひとつでもあります。
休日を利用して、そんな「白浜温泉」に訪れてきました。
最寄り駅は山陽電鉄の「白浜の宮」駅。近くには海水浴ができる砂浜もあります。
白浜温泉に向かって歩いていると、雲一つない夏の青空に映える煙突が見えてきました。
白浜温泉に到着。
屋号の看板は、釜の新調に合わせて、女将さんの息子さんが作ったものとのこと。
看板の隅にある「山」の字は、女将さんの名字にちなんでいます。
営業時間を掲示する案内板も手製のもので、なんとも言えない味わいがあります。
白浜温泉のお湯は、昔ながらの薪沸かしです。
大量に積まれた薪を見ていると、廃材を釜で炊けるように短く加工するだけでも、相当な重労働であることが想像できます。
白浜温泉の隠れた守り神「木彫りの熊」です。
廃材に紛れて白浜温泉にやってきたものを、女将さんが燃やさずに取っておいているものです。
「なんとなく可愛そうになって……」と、女将さん。
ただ、いざという時には釜にくべる覚悟とのこと。
営業開始にそなえて、新調された釜にはすでに薪がくべられています。
この釜に入れ替える時に古い釜を確認すると、お湯を流す管が動脈硬化のように詰まっていて、どうにもならない状態だったとのこと。
釜を入れ替えた当時を語る女将さんの目には、うっすら涙が浮かんでいます。
廃業を乗り越えるということは、それほど大きな決断が必要だったのです。
今、白浜温泉は窯場から番台まで、すべて女将さん一人でまかなって営業を続けています。
暖簾をくぐって下足室に入ります。
夏らしい、涼しげな飾り付けで出迎えてくれます。
下駄箱は昔ながらの木札式です。
受付もレトロな番台式。
白浜温泉には、かつて町のどこにでもあった銭湯の姿が、今もそのまま残っています。
脱衣所は格天井(ごうてんじょう)になっています。
東京にある宮造りの銭湯などに見られる、特別な建築様式です。
男性の脱衣所です。
隅には鉄製の扇風機や黒電話など、骨董品のような電気製品が残っています。
銭湯ファンに支えられる形で復活した白浜温泉にはオリジナルグッズもあります。
「しらはま温泉オリジナルTシャツ」は選べるカラーも豊富。
男湯の浴槽です。
湯船は深・浅・電気(女湯のみ通電中)。
総タイル張りの湯船になんとも言えない風格があります。
床タイルの模様も特徴的。他ではなかなか見られない柄にタイルが組まれています。
そして壁には富士山の絵タイルが。
湯船につかりながら富士山を見上げる、贅沢な時間を過ごすことができます。
男湯のみ、希少な「白ケロリン」の湯桶が置かれています。
一般的に知られる「黄色ケロリン」よりも前に生産されていたもので、汚れが目立つという理由で現在の黄色ケロリンに統一された経緯があります。
今ではまず手に入りません。
女湯は男湯と左右対称の造りになっています。
西側に位置しているため、綺麗な西日が射し込んで男湯よりも明るく輝いています。
女湯の絵タイルはどこかの海の風景。
脱衣所には男女ともに雑記帳が置かれています。
遠方から訪れた方のコメントが多いことが、白浜温泉が銭湯ファンにとって「特別な銭湯」であることを表しています。
ちょうど入浴前に、暖簾前で休憩している常連のおじいさんとお話する機会がありました。
おじいさんは、白浜温泉に遠くから訪れてくる人を嬉しく感じているとのこと。
「もう、このあたりには、ここ(白浜温泉)しか残ってへんもんなぁ。昔はぎょうさんあったのに」と、おじいさんは目を細めていました「ここが、ずっと続けてくれたらええんやけど」
そのおじいさんの願いは、きっと切実なものです。
銭湯は、ただ、体を清潔に保つためにお湯を浴びるだけのものではありません。
生活に寄り添いながら、湯船を通して、人と人が繋がってゆく場所でもあるのです。
古くからの姿を残す白浜温泉への訪問は、素敵な夏の思い出のひとつとなりました。
兵庫県姫路市 白浜町甲840-9
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TEL:079-245-0375
【営業時間】16:30~20:30
【定休日】水曜日と日曜日(GWと8月は日曜日も営業)
※上記の情報は2017年8月現在のものです。変更される可能性もあります。
※この記事内の写真は許可を得て撮影しています。銭湯内での写真撮影は禁止です。